いまさらベタな曲の翻訳。最近の日本で言えば、アニメ エヴァンゲリオンのエンディングで有名な曲だろうけども、世界的にはシナトラのバージョンが一番有名のようで。彼の曲が大ヒットした当時のアメリカはアポロ計画の真っ只中で皆が月に行こうと躍起になっていた時代とか。
エヴァのエンディングになっていたバージョンもこの曲の初出のバージョンも女性がしっとりと歌っている。文字通り青い月明かりの中、恋人同士でうっとりと聞いちゃったりしたらハマりそうなムーディーな曲だ。けど一番有名なシナトラのバージョンはもっとドンちゃん騒ぎな感じだ。このけばけばしいオーケストラに彩られた曲調と、一人男が歌っているところを考慮に入れてこの曲を聴いてみると、前述のような女性がムーディーに歌い上げるバージョンとはまた違った絵が想像できる。その派手な曲調はその男の浮かれ具合を現していると想像してみよう。
歌の主役は好きな女性ができて有頂天な男。
今日はどうやらいよいよその女性に告白するらしい。そのためにわざわざ背伸びして普段着ないようなスーツを着込んで、山高帽を被り、片手に真っ赤なバラなんか持っちゃってる。靴は履き潰したウィングチップで、何とか新品に見せようと手入れだけはきちんとしてきた。もちろん靴墨を少し塗りすぎたせいでペカペカに光っちゃってる。どれもこれも正直この男には似合わないのだが、長年にわたって刻み込まれた目の横にある笑い皴を見ているとどうやらこの男、悪い男ではなさそうだ。不器用だけれど誠実で明るい性格、といったところだろうか。
しかし彼女に告白するのに手持ちがバラの花だけじゃ心もとない。そこで必死になって考えた詩的な口説き文句が切り札だ。もちろん彼はこいつをぶっつけ本番に言うつもりはなかった。数日かけて、「ここは一気に読み上げて・・・ここは声を小さくして・・・」とかなんとかきちんと台詞の練習してきている。散々愛の告白シーンの練習に付き合わされたボロアパートの黄色い砂壁も「これならいけるぜお前。」と太鼓判。準備万端だ。
待ち合わせ場所の喫茶店に彼女がやってきた。真赤なワンピースを身に纏った彼女はかぐや姫か、と見紛うばかり。この世のものとは思えないほど美しい、そうまるで男の左手の中にある真赤なバラの花のよう。言うまでもないが、このバラの茎と包装はこの男が緊張で強く握りすぎてぐちゃぐちゃになっている。
他愛もない世間話もはずみ、いざ覚悟を決めて口説き文句を並べ立てる男。
やれ、月につれてっておくれよ、だの、星星に囲まれて遊びたいんだ、だの、水星や火星の春はどんなものかみせてくれないか、だの。もちろん砂壁とその薄い壁の先にいる隣人相手に練習してきた、読み上げのテンポは緊張のあまり崩壊している。けれど台詞はきちんと言い切った。これでどうだと、彼女の様子を伺う男。
いやしかし、必死になって考えてきた口説き文句、あまりにポエティック過ぎたのか彼女にはまったく通じない!(そりゃそうだ。)
そこで"In other words"とくるところが笑いどころ。男はそのうち、痺れを切らして、"いや、だからね、君が好きなんだよ!"と言ってしまう。
その男の必死さ、ずっこけぶりが笑える。
こうやってこの曲を聞くなら、キザな曲にはウッ、となる自分でもストンと耳に流し込める。それとこの曲はもともと"In other words"というタイトルだったらしい。となると月がどうとか言うよりも、"つまりは"というフレーズに比重が置かれていた曲のようだ。長い間この曲の詩の内容を知らずにすごしてきたが、最近久しぶりにこの曲を聞いて"In other words"というフレーズが耳にこびりついて仕方がなかった。なんでサビがIn other wordsなんて、何も伝わらないようなフレーズなんだろうと。訳してみたら、なるほどいい曲だなと実感。
話はそれるが。高橋留美子原作のめぞん一刻にもこの歌のようなシーンがあった。主役の五代裕作が管理人の音無響子にプロポーズをしようとするときに、五大が告白の台詞を考える。その台詞が「僕に味噌汁を作ってください。」。彼的には、その台詞の真意は彼女に自分の嫁になって毎日味噌汁作って欲しいということだったらしいのだが、当然管理人さんには通じず。台詞をストレートに受け取った彼女に味噌汁を作ってもらってそれを一緒に食べることになった、というオチ。
とまあ、告白はストレートに言ってしまうのが一番ではないだろうかと思った次第でありました。
一番最初にレコードになったバージョン
Kaye Ballard
エヴァンゲリオンのバージョン by CLAIRE
シナトラバージョン
��この曲を歌っている人は他にもまだたくさんいます。)
Fly me to the moon
Let me play among the stars
Let me see what spring is like
On Jupiter and Mars
月に連れて行っておくれ
星星に囲まれて遊びたいんだ
水星や火星の春がどんなものか見せてくれないか
In other words, hold my hand
In other words, baby kiss me
つまりさ、僕の手を握って欲しいんだ
ようするに、キスして欲しいんだ
Fill my heart with song
And let me sing for evermore,
You are all I long for
All I worship and adore
僕の心を歌で満たしておくれ
そして永久に歌わせておくれよ
君は僕が切望してきたものすべて
僕が敬愛し憧れてきたものすべてなんだ
In other words, please be true
In other words, I love you
つまりさ、真剣に聞いて欲しいんだ
ようするに、僕は君が好きなんだ
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