2009年2月26日木曜日

スカイクロラを見た感想

結局映画館には行かなかったけどスカイクロラ見ました。
その感想+α書きます。

最初にみたときにはこの映画、これでもかというくらいに酒とタバコを設定上は年を取らない子供というキャラにやらせるもんだから、見ていて不快さが先だって映画自体が楽しめなかった。つーかあんまりガミガミいいたかないが、不良映画でもないのに登場人物の子供連中に飲酒をさせたり(その子供の一人が食堂でビールをあおった後に車を運転しなかったのは飲酒運転に敏感なこのご時世に一応の配慮があったためかとおもうが笑)、火種のマッチ、タバコのポイ捨てをさせるのはどうなんだよ、と思ったモノだが。これを格好いいものとして処理できるほど自分は大人じゃないので見ていてイライラしましたよ。悪い意味で笑ったシーンが自分の乗っている戦闘機が墜落して奇跡的に一命を取り留めた少女が介抱をうけているときにつぶやいた台詞が「タバコある?」とは笑 ほんと、この手のシーンを省いたら映画自体もっと短くできたんじゃないの?というくらい酒酒タバコタバコなもんでイライライライラ。

だから最初の感想は
「酒とタバコとコーヒーっつう、格好いい嗜好品を美男美女にやらせて戦闘機の空中戦を格好良く描いて適当に涙要素をプラスすればゲージュツ映画になるしええんでないの?のノリで作ったんじゃねえのこの映画?」
です。(あんなに酒とタバコとコーヒーをうまそうに嗜む様を描いたアニメは今までにない!みたいなほめ方する人絶対いるよね笑)
でもそれじゃああまりにもひどいからとりあえず解説をみて、「退屈な現実のループから抜け出せ現代の無気力な若者よ」、というメッセージがあったのかと一応納得。


これじゃあ物足りないので、映画を集中してみることを阻害したこの自分が嫌うスタイリッシュさとはなんぞや、と考えてみた。まずこの映画を見ていて思い出したのがヴィムヴェンダースの「ベルリン 天使の詩」。
この映画は前半を天界の天使の退屈な日常を文字通りモノクロの映像でみせて、後半の映像をフルカラーに切り替え、下界に降り人間になった天使が色彩豊かな人間の世界に感動する様を描いている。そこには「何の変哲もない人間の生活はかくも美しいものなのだ」、というメッセージがあったのだとおもう。ここまではいい。そのメッセージは理解できるし共感もできる。がしかし、その天使が人間の世界でやりたかったことが、タバコを吸い、コーヒーを飲み、女とやることときたから興ざめで。もっとなんかこう、もっとないのかなと。自分がその手の嗜好品に手を出さないからなのもあるが、「他にもっとやりたいことってないの?ちょっとスタイリッシュすぎるんじゃないの?」と思ったものだ。たぶんここでこの天使が下界に降りて告白したが女にふられ悲しみの中一人オナニーをして、ひょっとこ口で
「おほっ!これはキモチイイ!人間っていいなぁ!」って台詞をつぶやきそのまま暗転、幕引きだったら自分も少しは共感できたかもしれない。スカイクロラも同じで、子供たちは普通に女を買うし普通にセックスもする。そして物語の中でこういう酒や煙草、コーヒーのような嗜好品が重要なポジションに置かれているわけで同じなわけだ。
そしてこの2つの映画それぞれにあるメッセージ性は嫌いじゃない。ただそのメッセージを伝えるやりかたが気にくわないのだ。なぜそれぞれの作品にでてくる人間はクールで、クールなものばかりたしなむ連中ばかりなのかと。

自分の一番好きな漫画家は新井英樹なのだけれど、彼の漫画にも同じようにメッセージ性があるが、そのメッセージを伝える方法がこの二作品とは真逆にある。彼の漫画の登場人物は、不細工ばかりで、そういうキャラが鼻水たらして涙するし、オナニーもする。そして下ネタのオンパレード。でもそういう人間が、涎を垂らしながらもまじめなことをたまに何気なく言う。普段不真面目な連中が急にまじめなことをしたり言ったりするのは、ギャップのせいか何倍にもありがたく聞こえるものだが、この人はそういうことを漫画でやっている。普通なら排除しがちな人間の汚さを意図的に残して漫画を描いているわけだ。

スカイクロラと天使の詩はそういう描写がまったくない。徹頭徹尾格好いいのだ。美男美女が格好いいモノを嗜み格好いいことをする、ってのは芸術、美術には至極まっとうなことなのかもしれないが、自分はそういうものが嘘くさく思える。意図的に汚さを排除する表現が嫌いなのだ。八十年代のアイドルじゃあるまいし、人間は放屁もすれば排便もする。それが本来の人間のはずなのに、マネキンのような美男美女に人生訓を託されても、自分とは違う世界にいる人間の言うことなんて理解できないよなあとなってしまう。だからこの映画をみて最初に思ったことが上記のような感想になったのだろう。

だからスカイクロラの登場人物が、酒と煙草をやるだけじゃなく、誰も見ていないところで鼻くそをほったり、エロ本を読んでいたり、劇中にでてくるマスコット的なバセットハウンドが単なる日本犬の雑種でそいつが糞を垂れていたり所かまわずマーキングをしている、みたいな描写があったら素直に楽しめたのかもしれない。というか新井英樹ならそういう描写を加えていたんじゃないかなあと思ってみていた。そういう描写ありきで、登場人物になにがしかのメッセージを託している映画、というなら眠くならずに普通に楽しめたのかもしれない。まあ新井英樹のように、格好つけ:格好悪さの比率が
2:8みたいにしなくてもせめて5:5くらいにしてくれたら良かったのになと思いました。スカイクロラは10:0。

確か宮崎駿のアニメを健全すぎて、アニメを欲する人間には本当の意味で何かを訴えかけることはできないって押井守は言ってたと思うんだけど、それならこういうアニメを欲する人間たちの現実とはかけ離れた世界観を持ったスカイクロラというアニメでもってアニメを欲する人間に何かメッセージを伝えることはできるのだろうか、と思った。少なくとも自分には届かなかったかな。




あと絢香の歌う主題歌「今夜も星に抱かれて...」は好きです。ああいう、最近のあえぎ声みたいな歌い方をするシンガーの曲は基本的に嫌いなのだけど、珍しくいい曲だなあと思いました。

あとあと、劇中の「太陽がまぶしかったから」「カミュ?」の台詞のやりとりに「うェッ!」ってなったのは自分だけなのだろうか。