ターンエーガンダムを全話見終わった。
戦争の時代が終わった地球に暮らす地球人と地球に帰還しようとする高度な文明を有する元地球人な月の人達との間に起きるいざこざの話。この設定、なんとなくイデオンの設定に似てる。話は月の女王ディアナ・ソレルが戦艦に乗って地球に戻ってくるとこから展開していく。
ケーブルTVの再放送で最終話だけ見てしまっていたんでなんとなくネタバレされた状態でみたんだけども、なんか話も雰囲気も全体的にガンダム使って戦争やってる割にはのほほんとしてたなってのが感想。戦争描写にしても、ソシエ・ハイムっちゅうオテンバなお嬢様が戦場を丸っこい、ガンダムマスコットのハロを大きくして目つきを悪くしたような水中メカのカプルに乗りながらウロウロし続けているせいでまったく緊迫感がない。敵軍(一応。)にいるポゥ・エイジとかいう中年サラリーマンがポマード塗りたくって固めたような髪型をしたヒステリックなムーンレイス(月の人間)の女が1stガンダムの巨大MAビグザムを小型化して俊敏にしたようなモビルスーツに乗って泣きながら地球の街々をぶっ壊していくとこなんか、戦争の悲惨さなんてどっかにいっちまって、笑いを誘う。んで主人公のロラン・セアックがこれまた17歳の少年の割に完全に老成しきっちまっていて、危なっかしさが皆無。ここまで完璧な男が主人公ってのもZガンダムが好きな自分としてはなんだかなとなる。最初から成長しきってんだから1stガンダムのアムロのように成長の過程を見守っていく、みたいなことができない。完璧な主人公が完璧な立ち回りをしていくところをただ眺めるだけ。こんなもん面白くもなんともない。
まあでてくるキャラみんなアクが強いんだけどみんなZガンダムのカミーユに「遊びでやってんじゃないんだよ!」と活を入れてもらわないとならんくらいにのんびり戦争してる。こののほほんとした感じがどうにも、Zガンダムのようなバチバチモビルスーツで戦争するガンダムを期待していた自分には、有り体に言えばかったるかった。だがしかしディアナ・ソレルとかいう19歳の月の女王様には感情移入ができた。
この人見た目は19歳だが、冷凍睡眠だかを繰り返して長いこと女王をやってきてる御方らしく、実年齢は1000歳以上とかなんとか。冷凍睡眠から起きてきて数年間政治をやって眠ってまたおきて政治をやって眠るというサイクルを繰り返してきた、青白い顔をした青目金髪の女神様。この人がまさしく偶像と書いてアイドルのような扱いを受けているお人で、ムーンレイスの大半の人間はこの人を盲信している。どいつもこいつも彼女を見れば「ディアナ様!」、とひざまずく。狂信者だよまるで。しかし1000年以上生きている女王という割に世間知らずで世慣れをしていないし、打算抜きな正義感が先走って後先考えずに無謀な行動をとるところもあるという、為政者としてはある意味未成熟な面もある。子供の割に大人びた主人公のロラン・セアックとは対照的。言葉遣いも態度も女王様だから尊大なんだが、なんだか人格がグラグラしていて女王という感じがしない。しかも劇中では戦闘用の機械人形たんまり詰め込んだ戦艦に乗って地球に乗り込んできたわりには、地球人とは戦争をしない、という平和主義路線を愚直に走り続けた結果、開戦やむなしなタカ派の側近達にあっさり裏切られてしまうわけで、本当のところでやはり威厳がない。
なんというかもう、籠の中のカナリアという感じ。無理やり女王として奉られ偶像崇拝の対象とされて、自分を押し殺して女王を演じている様が憐憫を誘う。銀河英雄伝説の(これまた金髪青目の)ラインハルトみたいな、血なまぐさいことも平気でするようなガンガン行くタイプの王じゃない、夢みたいなことを言う平和主義者で形だけの女王様です。
そんなお固い女王様にも恋話エピソードがある。
ディアナ様は数百年前にウィル・ゲイムという名の地球人に恋をし婚約までしていた。けどこの地球人は事故で死んでしまった。そして数百年後に地球に出戻った王女さまはその数百年前に恋に落ちたウィル・ゲイムに容姿がそっくりな彼の子孫に会い、昔を思い出し涙する。けれどその子孫は自分のご先祖様の恋したディアナ・ソレルに合うために月に向かう途中に戦死する。この話を見ていて、もうこのまま政治なんて投げ捨ててこの子孫と仲良く暮らしてください王女さま!って感じになっちまったけれど、やっぱりそうはいかなかった。悲しい。
ネタバレになるけどこの人、最終的に自分に見た目がそっくりで、おそらく政治的手腕は女王より上なキエル・ハイムという地球人を身代わりに立てて、彼女に自分の代わりに女王ディアナ・ソレルになってもらい、政治の舞台から姿を消す。そして地球でロラン・セアックと二人、隠遁生活を送ることになるわけだけど、これが気の毒で悲しい。設定では冷凍睡眠を繰り返してきた結果、見た目は19歳でも体は老化しているため、月で延命処置を施さない限りこのまま一気に年をとって死んでしまうらしい。急激な老化現象から杖をついて歩いている描写が涙をさそう。。今まで彼女が必死に演じてきた身の丈に合わないディアナ・ソレルという巨大な偶像の歴史と彼女が積み上げてきたその功績は全て地球人のキエル・ハイムが持って行ってしまったわけで、彼女に残されたものは何もない。悲しすぎる最後じゃありませんか?!
凄まじい熱と目もくらむばかりの光を放つスポットライトに晒され、真っ白い月を覆い尽くすほどに巨大な"月の女王 ディアナ・ソレル"という七色の影を落とす。その大きな影を月の民達は畏れ敬い崇め奉る。でも影のもとになるのは19歳の女性であり、、緑あふれる地球の遥か彼方にある月という不毛の地で、人々が生きていくために必要だったムーンレイスと月の女王という幻想を維持し続けるために稼働し続ける、その舞台装置のスポットライトは少しずつ彼女の命を燃やしていく。。なんかこういう感じ。ギラギラと輝く真夏の太陽の下、綺麗な黄色い花を咲かせ秋には枯れてしまう向日葵のような、人々をまとめるために人身御供とされた儚い女の一生でありました。
とまあ、自分としてはディアナ様がどうなるのかだけを楽しみにみていたガンダム。終わりよければ全て良し、なターンエーガンダムでした。
この絵はもちろんディアナ様。本編最終話にでてきた雪とイギリスのロックバンドZombiesのA Rose for Emilyという曲をイメージして描きました。歌詞は多分フォークナーの小説「エミリーに薔薇を」の主人公エミリーを歌った内容。Zombiesの曲の歌詞は、プライドの高い女性が一輪の薔薇をプレゼントしてくれる伴侶も持てず、一人寂しく死んでいくという内容。あと服の感じはファイブスター物語のファティマな感じで。なんかディアナ様ってファティマのイメージにかぶるんで。
雪の中で火照った体を冷やしながらお眠りください。ディアナ様万歳!!